研究概要 |
この研究では,この国の地方都市や農山村の生きるよすがを探して,観光産業の可能性を考えることになった。農林漁業,伝統的な1.5次産業,時間の経過の中で地域的に形成されてきた諸産業,誘致した企業群による地域経済の循環維持,こういったことに加えて,観光産業が如何なる機能を果たしうるのか,具体的な地域を想定しながら検討した。付加価値を地域に付与する産業である観光は,基礎になる産業の展開無しには発展のよすがを得られない。地域社会の内発的な発展との関連で観光の意味を考えるというのは,地域の基礎産業の発展を観光の視点からも考えることに他ならない。 対象地は,歴史的遺構が多く所在し伝統的諸産業あるいは現代的電機産業の発展した米沢市と農林業で生きてきた高畠町が織りなす地域であり,その諸産業のさらなる持続的発展を考慮しつつ,観光への視野を如何に広げられるかが課題となってきた。それは観光への視点こそが,それらの諸産業の高次の発展を支えるという判断の故である。米沢は,歴史的遺構と伝統産業を要素に,まちづくりにそれらを取り込み,複合化されたより厚みのある観光地への展開を計画し,高畠は有機農業とグリーンツーリズムを併せて農村滞在型の観光領域を開発しようとしている。いずれにしても,日常的な時間と空間からの離脱,あるいは時間と空間に関わる異文化体験,別の表現をすれば,都市型生活者たちの自然志向,時間的なゆとり志向を満たそうとする現代的な観光のありかたを示しているが,その観光を支える基礎産業発展の課題がそれぞれに消えたわけではなく,この国の地域構造に規定されたより大きな課題が見えてきているというべきである。
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