研究概要 |
標記研究主題に基づき,つぎのような研究を行い,知見を得た。 (1)フランスは,進路指導を制度化しており,さらに生徒の適正・能力等に応じた進路選択と指導を模索してきた。進路指導期と呼ばれてきた前期中等教育(コレージュの4年間)は,そのためのものであり,後期中等教育(リセを中心とする3〜2年間)に進学する際に進路を決定するが,その後,後期中等教育においても転科を認めようとし,そのための装置を設けたところに特徴がある。 転科を容易にし,転科による支障をすくなくするために特別の学級が作られた。これは「橋渡し学級」(classes passerelles)と総称される「特別第2級」,「適応第1級」であり,転科に大きな役割を果たすことが期待された。しかし,実際にはそれほどの転科を可能にはしなかった。これは,フランス人の能力観に基づくものと思われる。しかし,この制度自身は示唆に富む物である。 (2)中等教育の修了証書と同時に大学入学資格なるバカロレアは,後期中等教育の大衆化と専門化による再分化が進み,文化,理科,社会・経済,技術,職業系としてA,B,C,D,D^',E,F,G,G^',H,Bpro,のように約10種類に分かれコースを形成し,それに向かったカリキュラムが組まれてきた。この場合,コース間転科が行われることが期待されたが,実際には困難であった。職業系から高等教育に進むことのできる「技術者バカロレア」に準備させるために設置されたのが,上述の「橋渡し学級」である。 この学級は,転科を可能にする目的をもっていたが,現実にはごく少数しか可能にしなかったようである。このような専門化されたコースの意味について論議され,1995年からは,その内部で細分化はなされているものの普通バカロレア,技術バカロレア,職業バカロレアの三つに再編され,この再編によって,グループ内での転科が比較的容易になったといえる。このように,特別の学級「橋渡し学級」を設置し,生徒の希望に応じた進路指導は,必ずしも上首尾に進展しなかったが,生徒の能力適正や人生の見通しに応じた進路指導を可能にする制度として多くの示唆と可能性を有しているといえる。
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