研究概要 |
この研究は,研究者が民族学的情報を他者とくに一般の人びとへ伝達する手段としての博物館の機能に注目し,そうした機能をさらに分析的に検討することにより,民族学情報伝達装置としての博物館の意義を再検討し,今後の博物館活動の指針とするものである。対象とする文化は「アイヌ文化」とした。 調査研究のアプローチとして,学芸員によるアイヌ資料コレクションの形成,おなじく学芸員によるアイヌ文化あるいは歴史についての展示企画、小学生を対象として博物館がおこなう教育プログラム,それに展示会を広報するためのプログラム,この4つを柱としてとりあげた。コレクション論では,いくつかのコレクションの再検討と海外のコレクションとの比較をおこなった。展示論では,北海道開拓記念館のアイヌ展示部分のシナリオの再検討および同部分について来館者がどう展示を理解したかという調査をおこなった。普及広報としてひろく民族展示にかんするポスターを題材に,それぞれの展示がおこなわれていた年代の民族観を考察した。また,海外博物館に於ける民族展示のレビューをおこない,国内展示との比較をおこなった。このほか,狩猟具を用いた体験的プログラムを作成し,小学校において実践した。 現時点で到達した結論は,民族学的資料は,概念として先験的に存在するものではなく,あくまでも学芸員が主体的に関与し,収集され,展示されるものである。その限りにおいて学芸員の視点は意味を持つが,展示という情報伝達媒介を通すとき,かならずしもそれが確実に伝わってはおらず,場合によっては誤解されて伝わっていることがわかった。また,実際の展示以外でも,たとえばポスターなどが普及する民族学的情報は無視できないこともわかった。 今後は,近年おこなわれている博物館の展示評価の手法をとりいれながら,展示を客観的に評価するだけでなく,変更することもふくめた研究をおこなっていく必要がある。(798字)
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