研究概要 |
キリシタン文献が持つ,その殆どが版本として刊行されているという特色に基づく言語資料性について,版本キリシタン文献と同じ生産母体による写本の言語と対照した総合データベースを作成する事によって,実証的に研究した。 従来の研究では未調査であった有力写本「スピリツアル修行」古写本(「御パションの観念」部分,天理図書館)を,同写本の共同発見者である石塚晴通教授(北海道大学)の助言を参考にしつつ翻刻し,ローマ字本への参照リンクを加えつつ,本研究で維持するキリシタン文献総合データベースに組み込んだ。この結果,版本・写本が自由に対照データベースが構築され,語彙・表記に対するイエズス会側からの言語統制の経年変化,同一翻訳底本に基づく異なる翻訳に於ける用語選定の差から生ずる文体変化,等の統計データを得て,言語に対する規範の変化,言語表現に対する介入の強さが指摘できるようになった。 特に「本語」(宗教上のテクニカルターム)の翻訳に関しては,(従来指摘されている通り)版本が原語のまま残そうとする傾向が甚だしいのに対して,写本は,敢えて翻訳を試み,一部の訳語に限っては意図的な訳語選定を行っており,且つその訳語が版本キリシタン文献が敢て忌避した用語を用いる等,版本の全面的な言語統制からは自由な,別の規範を見せる事が明らかになった。 これらの対照結果に就て記述した研究成果の報告書を執筆し,関係研究者などに頒布した。又、インターネット上で,「スピリツアル修行」部分のデータベースを公開する事とし,翻訳原本であるG.Loarteの翻刻との対照ポインタの作成の準備も進めた。このデータベースは、版本・写本の画像が対照できるものであるが,写本の画像の公開は、原本所蔵者(海外を含む)の許可が必要なため、尚しばらくの準備を要する予定である。
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