研究概要 |
日本人が、何をどのように学んできたか、どんな文章を規範とし、どんな知識内容を必須のものと考えてきたかについて考察した。往来物は、時代によって、所属する社会、階層、性別等によって異なるであろう、諸々の常識・知識・教養の典型を示す。実用性と文学性の程良い融合の中に折り合いをつけたその文章は、現代日本の文章規範の原型でもある。 平安時代から南北朝・室町にかけての400年ほどを視野に入れて、古往来の成立をとらえ、制作者と読者(学習者)の双方を含み込む社会を、「成立文化圏」とした。ここで扱ったのは、寺院文化圏で成立したと見られる7点の作品である。 まず、良質の本文を提示することを最優先課題とし、伝本の収集と整理に努めた。次に、各作品個別の内容把握と、そうした話題から知られる制作者の位相をさぐることを試みた。また、先行文献の引用状況を調べることで、「往来物」の特色を明確にしようとした。 報告書に収めることが出来たのは、中世に入って以降に成立した次掲の5点である。 1,垂髪往来 2,山密往来 3,十二月消息 4,弟子僧往来集 5,新撰遊覚往来 (「釈氏往来」については、ほぼ同様の内容を持つ論文が刊行されたため省いた。 また、「南都往来」については、見るべき成果が得られなかった。) 考察は未だ部分的で、解釈にも不審を多く残している。今後は、作品相互の関わりや、これらを製作した文化圏の特色についても研究を進めたい。その上で、武家文化圏制作の作品への継承・展開を考えていく予定である。
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