研究課題/領域番号 |
09610463
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
英語・英米文学
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮下 雅年 北海道大学, 言語文化部, 助教授 (90166174)
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研究期間 (年度) |
1997 – 1998
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研究課題ステータス |
完了 (1998年度)
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配分額 *注記 |
1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
1998年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
1997年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | アジア系アメリカ人 / 日系アメリカ人 / 移民 / 名前 / 名付け / エスニシティ / マイノリティ / 越境性 / 雑種性 |
研究概要 |
本研究は三部からなる。第一部は、第二次世界大戦前のアメリカ社会で移民がその名前を巡ってどのような問題に遭遇したかをルイス・アダミックのWhat's Your Name?(1942)に即して検討した。名前の問題は既にメインストリームと移民の文化戦争であった。名前を言語と読み替えてみれば、それは今日の二言語使用教育をめぐる論争の争点と重なり合い、基本的な対立の構図自体は同じであることがわかる。アダミックは社会の有機性に信頼しており、結局は移民の名前は自ずとアメリカ風に変わると考えているが、今日では有機的な社会が無傷のままあるわけではなく、その有機性の構築が焦眉の課題になっている。 第二部では日系アメリカ人の名前に関して、戦前の歴史と最近の若い作家の傾向をたどった。戦前の一世は、生活のために金でアメリカ市民の名義を借りるという形で名前の問題に遭遇した。二世の多くは東西の掛け橋になることを期待されて二重の名前を持ち、名前は帰属を巡って心理的な葛藤を生んだ。それが強制収容によってさらに捩じれて、例えばもっぱら「メアリー」だった娘が「マリコ」を名乗る。以来半世紀が過ぎた今日では「マリコ」はどのように描かれているかといえば、ほぼ3つの類型がある。一つは、日系としての連続性、文化の継承を謳うもの、もう一つはその捩じれを暴露し、特に名前の政治性を問うもの、さらには日系の歴史を喜劇的に読み替え、むしろ他者との通路を探ろうとしているものがある。 第三部では、バーラティ・ムーカジの小説について、アジア系移民の名前の問題がテーマとしていかに発展したかを跡付けた。初期の2編では主人公はアメリカ人として新しく名乗りを上げようとしながら故国の因襲に引きずられてできない。3作目では、白人男性からアジアを脱色した名を付けられた主人公は無名の者となって逃げ延びる。無名の越境性は4作目でさらに変奏されて、物語世界は洋の東西ばかりでなく、17世紀末と20世紀末を往還する。このアメリカ社会の流動性、境界横断的な活力への信頼に名前の問題は結び付けられている。
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