研究概要 |
1 まず課題研究の基盤整備として、古英語期における作者不詳の説教・聖者伝約150点を網羅的に調査し、コーパス全体の作品目録を作成した。とくに古英語散文の系譜研究にとって必要な、同一の典拠・題材に基づく異版・異本についての詳細な情報の集成を目指して、既存の刊本をできるだけ網羅的に収集し、さらに未校訂分についてもできるだけ原写本について調査し、各作品について典拠・対応箇所などの記述を含む包括的な作品目録の作成を進め、これを完了した。また目録には、トロント大学のDictionary of Old Englishの2種類の分類番号を付し、参照の便を図った。 2 上記の作品目録に基づいて古英語散文の系譜の研究上とくに重要な作品を選び、その新たな校訂を行なった。これによって、MSS Junius 85-86、第5番(AElfric,Catholic Homilies II第7番の異版)、MSS Junius 85-86、第7番(Blickling Homilies第4番の異本)、それにNapier XXX(Vercelli Homilies,Wulfstan,Institutes of Polityなどの改変を含む)の三作品の新たなテクストを完成した。このうちJunius写本からの2篇については、これまで校訂本は第5番は皆無、第7番は部分的にしかなく、今回初の完全校訂本が作成されたことになり、その意義は大きい。またNapier XXXについても、Scraggの校訂本(1992)の見直しを行ない、数箇所にわたる転写の誤りを訂正することを得た。いずれの作品についても、原写本の句読点などを再現し、既存の校訂本よりも厳密なテクストを作成した。 3 以上の基礎資料をもとにした、後期古英語説教散文作品群の言語の研究を行なった。とくに散文体の発達と系譜の観点からVercelli Homilies,Blickling Homilies,Napier XXXを中心に、倒置語順などの統語法ならびに文体について考察を進め、その成果を論文'Initial Verb-Subject Inversion in Some Late Old English Homilies','A"Wulfstan Imitator"at Work:Linguistic Features of Napier XXX'(いずれもStudies in the Historyof Old English Prose(Tokyo:Nan'undo,2000)に所収)として発表した。
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