研究概要 |
Jean-Jacques Rousseauは、1790年代には「フランス革命の父」とみなされ、彼の思想は革命精神、主観主義、性的情熱と結びつくようになる。彼の急進主義的言説に対して、英国では賛否両論があった。筆者はこれまで、Rousseauに対する反応は作家の信奉する主義によって異なるということ、つまりHelen Maria Williams,Charlotte Smith、Mary Wollstonecraft、William Godwinなどの急進主義作家はRousseauの思想を熱狂的に支持し、一方Elizabeth Hamilton、Jane West、Charles Lloyd、Edmund Burkeなどに代表される保守主義作家はRousseauの思想に危険な兆候をかぎとり、否定的・侮蔑的な態度を示した、ということを実証した。この知見を、RousseauのJulie,ou la Nouvelle Heloise(1761)やEmile(1762)に関する言及やほのめかしが多数見受けられるEliza FenwickのSecrecy(1795)、Isaac D′IsraeriのVaurien(1797)、George WalkerのThe Vagabond(1799)、Charles LucusのInfernal Quixote(1800)、Elizabeth HamiltonのMemoirs of Modern Philosophers(1800)、Sydney OwensonのSt Clair (1803)、E.S.BarrettのThe Heroine(1813)などの小説を分析することによって、さらに補強した。これらの小説は現在、絶版になっており、入手困難なため、平成9年度に、大英図書館からマイクロフィルムの形で取り寄せ、精読し、分析した。平成9年度に得た成果をもとにして、平成10年度には急進主義作家と保守主義作家のRousseauに対する反応を明確化した。Rousseauの小説がロマン主義時代の小説、特に「感傷小説」に知的・思想的枠組みを提供していること、さらにはこの時代の小説がRousseauを媒介にして「間テキスト的関係」を形成していることを検証した。
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