研究概要 |
近代小説(novel)の語り(narration)の達成を,三人称のしかも「内的焦点化/視点」(internal focalization/point of view)に求めることに異論はない.しかし,その淵源と生成のプロセスについては必ずしも意見の一致を見ているわけではない.本研究においては,この問題について次の3点を提案する. 1. 「内的焦点化/視点」の語りの特徴は,物語内容(story)の物語言説(discourse)への侵入,物語内容の語りの現在への召喚,あるいは作中人物による語り手の占拠・占有という構造を有している. 2. 空想旅行記といわず現実旅行記といわず旅行記には,主に2種類の語りの類型が弁別できる.日録タイプの旅行記と回想録タイプの旅行記である.この二つの類型の混合のタイプ,すなわち日録を偽装する回想録あるいは回想録を偽装する日録とでも呼べそうな旅行記が存在する.この第3のタイプの旅行記の語りの構造に内的焦点化/視点と共通の構造を見出すことができる.すなわち,等質物語世界的語り(homodiegetic narration)における作中人物の〈わたし〉(character-I)による語り手の〈わたし〉(narrator-I)の占拠・占有という構造が見られるということである. 3. 近代小説の語りのテロスたる三人称の内的焦点化/視点の語りのプロトタイプをこの日録を偽装する回想録の語りのうちに確証することができる.
|