研究概要 |
フランス中世の傑作『狐物語』を伝える写本として,ヨーロッパおよびアメリカ以外にあるものとしては唯一の写本である,広島大学所蔵のt写本(広島大学付属図書館184624番[953/R-16])を総合的に研究するために,平成9年度はまず当該写本に用いられている羊皮紙の作成年代を推定することから始めた。続いて平成10年度にはt写本に含まれている第II枝篇と第III枝篇とを採録している全ての写本との校合を行った。すなわち,t写本以外で第II枝篇と第III枝篇とを採録している写本はC,M,n,O,H,I,B,K,L,N,D,E,F,Gである。 これらのテクストとt写本のテクストとを比較照合した結果は,「『狐物語』t写本の総合的研究研究成果報告書」(平成11年4月)に所収の参考資科(1)および(2)を参照。 t写本が『狐物語』の写本系統分類においてはγ系統に属するものであることはすでに指摘されているが,t写本のさらに詳細な特徴の究明が必要である。そのための基礎資料として,本研究から得られた成果は大いに有効である。 できれば,その他の『狐物語』写本の羊皮紙のAMS放射性炭素同位体年代測定法による年代測定を行うことが望ましいが,これらの写本がそれぞれフランス,イギリス,イタリア,アメリカの公立図書館に所蔵されていることからすれば,その実現は容易ではなかろう。
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