研究概要 |
文法家という1個人が統語論(語順論と構文論)に関して提示した「言語の理論態」が超個人的な「言語の経験態」を反映していたのか,それとも文法家たちが自らの語感ないし印象によってそれぞれ規則を提示にすぎないのかを明らかにする目的で,18世紀の文献資料を基にしていくつかの用例の分析を行った.特に考察の対象とした文法的カテゴリーは,非人称構文,相関詞としての代名詞es,そして導入詞をもたない副文である.これらについて,18世紀の著名な文学作品から収集した実際の用例(言語の経験態)を,アーデルングやベッカ一を初めとする18世紀(および19世紀)の主要な文法家たちの記述(言語の理論態)と比較検討してみた.18世紀(および19世紀)の文法家たちは18世紀の文学作品で用いられた用法を「規範」もしくは模範として重視し,実際の文法記述に利用しているのであるが,その際言語の経験態と言語の理論態の間には特定の乖離ないし変更が明らかに観察された. また他方,18世紀における統語現象についての経験態と理論態をより正確に把握するために,17世紀後半における語順について用例と文法理論の分析を行った.その結果,言語の経験態と理論態の相互的影響関係の一端が明らかになった. なお,平成10年10月には,日本独文学会秋季研究発表会では研究代表者のと研究分担者の両名が,「H.パウル以前のドイツ語文法ー文法の知的パラダイムの転換と展開」と題するシンポジウムで,18世紀のドイツ語統語論に関する研究発表を行った.
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