研究概要 |
本研究は,18世紀半ばのヴェネツィアで活躍した劇作家カルロ・ゴルドーニの『別荘3部作』(1761年)の内に,この年に同時進行していたヴェネツィア共和国の政変と国家的危機意識の反映を読み取ろうとする試みである。このクェリーニ事件と呼ばれる政変は,ちょうどこの3部作が執筆され,相次いで上演された時期と重なっており,当時の観客の大多数-参政権を持たない市民階級-は,この劇の主人公である若くて大胆な市民階級の娘ジャチンタの内に,急進改革派の象徴を,また商人の老フルジェンツィオの内に,伝統と良識の擁護者で保守派の代表を認めて,この3部作をいわば《際物》的に享受していたように思われる。本研究は,この劇作家とヴェネツィアの観客たちが暗黙の了解のもとに,別荘狂いの喜劇を政治劇としても読み解いて,二重に楽しんでいたことを検証した。
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