本研究では、デンマークおよびスウェーデンで実施され、高い評価を受けている聴覚障害児のバイリンガル教育(手話をろう児の第一言語:母語、国語を第二言語と認識し、聴覚障害児教育の現場で手話を使用して各教科を指導する教育法)について、その理論的裏付けを研究し、実際に使用している教材を分析して、聴覚障害児の言語習得の向上をうながす要因を一般言語学的・社会言語学的観点から追求した。 バイリンガル教育の方法論の研究では、デンマークにおけるバイリンガル教育10年間の実践報告や、研究論文を参考にして、北欧における聴覚障害児のバイリンガル教育の理念と成果について考察した。 教材の研究に間しては、デンマーク、スウェーデンのろう学校で使用されている国語テキストAdam's Bookを分析した。その結果、このテキストが聴覚障害児の国語学習に適している要因がいくつか確認された。 今回の研究では、聴覚障害児の言語習得に手話言語が非常に重要な役割をはたすことが明らかになった。今後わが国で問題にすべきことは、手話を聴覚障害児教育の現場で採用するか否かではなく、どのようにして効果的な手話教育をするかである。日本のろう学校が手話を使用して合理的かつ体系的な教育を実践するには、次にあげるような問題を解決することが先決である。1.手話をひとつの科目として教える教師を養成し、教授法を確立し、教科書を準備すること。2.手話を使って各教科(国語、算数、理科、社会、英語など)を教える教師を養成し、教授法を確立すること。3.現代情報化社会のニーズに対応して、手話の語彙を拡大する方法を開発すること。4.手話を言語学的に研究する研究者を養成し、手話の発展を促進すること。5.二言語使用教育のありかたを研究し、日本手話と日本語の両方に機能する人材を養成する方法を開発すること。
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