研究概要 |
本研究の目的は、ポーズの「超分節性」(即ち、ポーズ挿入にともなうイントネーションや発話速度などの変化が、ポーズ位置前後の発話分節、あるいは時間的にさらに離れた位置の発話まで及ぶという現象)に着目して、その諸相を解明することである。 平成9年度は、文節という言語単位に着目して、ポーズ挿入による発話速度への影響を分析した。その結果、(1)ポーズ直前の文節で発話速度が遅くなる点や,(2)発話速度のばらつきポーズ位置の直前直後の1文節で著しい点などが明らかにされた。さらに、ポーズなしの場合の発話速度を基準とした時,ポーズありの場合の発話速度がどのように伸縮するかを調べた結果,ポーズ位置直前の1文節において発話速度比が著しい縮小を示すことが明らかになった. 平成10年度は、さらに詳細な解析を行うため、文全体を2〜3モーラのリズム単位に分割して、発話速度の伸縮の実態を調べた。また、ポーズ直前のリズム単位に関しては、リズム単位内の個々のモーラについて伸縮の様子を定量的に解析した。その結果、文中にポーズが挿入されると、(1)ポーズ直前の発話速度が顕著に低下するという、いわゆるprepausal lengtheningの効果に加えて、(2)文全体の発話速度が増加または減少の傾向を示す(話者により、発話速度の増加または減少のいずれかの一方をとる傾向として現われる)という効果が観察され、文中のポーズは、ポーズの直前の発話部分に作用する「ローカル」な発話調節と発話全体に作用する「グローバル」な発話調節という、2種類の異なる効果を持つことを示唆する結果が得られた。 従来のポーズ研究はprepausal lengthening等の局所的な現象のみに着目して行われてきたが、これに対して、本研究は、ポーズの影響が従来考えられていたよりはるかに広い範囲に及ぶ「超分節的」な現象であることを明らかにした。本研究成果は、ポーズ研究に有用な知見を提供するとともにポーズ研究の新たな方向を示したという点で、音声研究の一分野の進展に実質的に貢献したと言える。
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