研究概要 |
1.本研究では,わが国における臨床研究の実情について認識を得た後,合衆国における規制のあり方を検討するとともに被験者への補償などについて欧米の実態を把握し,それらの知見を踏まえて,わが国での研究倫理指針の経緯と内容の検討を行った。2.合衆国での規制に関しては,現在までの経緯と,現在の規制体制の把握に努めた。連邦レベルの規制には,各省庁が実施・補助する研究に適用されるものと,新薬等の臨床試験に適用される食品医薬品局による規制とがある。そのうち主導的であったのは,前者のうち厚生省による規制であり,今日ではそれに基づいて作られたCommon Ruleが関係全省庁によって適用されている。その特徴は,(1)実効性確保の手段として,研究施設に対して被験者を保護することを確約する書面の提出を求め,(2)現実に被験者保護の責任を担う機関として,施設内審査委員会の設置を求め,(3)被験者保護の要として,インフォームド・コンセントの要件をおくこと,に求めることができる。3.わが国の指針については,「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」,「ヒトゲノム研究に関する基本原則」,「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」などについて,策定に参画した経験を踏まえて,その内容を検討した。共通する重要な論点として,(1)既存資料及び包括的同意,(2)遺伝情報の開示の許容性・義務性,の問題があり,合衆国の資料等の検討を踏まえた研究の結果,(1)については,再同意取得が原則で,例外的取扱いには厳しい要件を課すべきで,包括的同意については,提供者が同意の対象を理解できるように配慮することを条件に認める余地があるが,そのためには研究活動の実情の周知が不可欠であること,(2)については,わが国の指針・原則が,開示を許容する態度を取る方向にあることを確認するとともに,開示の義務を肯定すると読める合衆国の判決を紹介した。
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