コーポレート・ガバナンスとは、企業の経営行動を管理する構造や企業の基本政策を決める最高責任者を選抜する構造がどうなっているかということに関わる。そして、企業の経営者に対するモニタリング手段を決定し企業の規律を律するしくみに関係している。また、このコーポレート・ガバナンスという要素は、企業の資金調達方法や債務不履行になった時の債権者の対応のしかた等の金融システムのあり方とも密接な関連を持つ。 実際には、経営者に対する株主のコントロール・メカニズムであるコーポレート・ガバナンスのシステムは、国ごとにかなり異なっており、その優劣を考察する試みも多い。ただし、そのような企業統治論は、各国の景気変動の状況に強く左右され、経験的かつ短期的傾向を強調するきらいがある。しかしながら、一国のコーポレート・ガバナンスの決定には長期的判断が重要であり、その時々の経済の状況に強く左右されるべきではない。本研究では、非公開情報を持つ大債権者・大株主の役割を分析した情報モニターモデルと制度的補完性のモデルを発展させて、コーポレート・ガバナンスのあり方について、理論的な視点から研究を進めた。 研究の成果として、まず、コーポレート・ガバナンスのあり方と長期労働契約のあり方に関して、金融システムと労働システムの制度的補完性を考慮して、アングロ・サクソン的なシステムと日本・ドイツ的なシステムとの間の動学的な安定性を進化ゲームのモデルを使って考察した。そして、どのような場合にどちらのシステムに収束するかを、生成的安定均衡の概念を使って明らかにした。また、支配的な投資家と経営者の目的が違う時に、どのような証券を市場で売買すれば経営者の規律づけに役立つのかも考察した。その際に重要な役割をはたすのは、倒産の可能性をも考慮に入れたスタンダード・ボンド、もしくは、コール・オプションを伴うボンドであることを明らかにした。
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