最近の実証研究が貸出チャンネルの存在を支持しているとはいえ、それが預金のチャンネルよりも重要なものかどうかについては、議論の別れるところとなっている。これは、識別性・因果性の問題をクリアする分析の積み重ねが不足しているためである。この点に着目、具体的には、Romer and Romer(1990)が引き締め期に着目して分析したのと同様、金融仲介機能が明らかに低下した時期、日本の戦開期、に注目した。この結果、戦間期日本では、貸出チャンネルの不具合は金融仲介機能の低下の形で1927年をピークとして現れたことが、統計データおよび記述的統計で推察できた。一方、実体経済は、1930-31年をボトムとして変化した。この結果は、どちらかといえば、貸出チャンネルは有意であったものの、実体経済を支配していたのは、別な要因であったと考えられる。 一方、引き締め期に着目するRomer and Romer(1990)の方法では、インフレーション等の政策目標から金融政策へのフィードバックがある場合、結局のところ、識別性の問題が回避できなくなる。本研究では、日本の金融政策のインフレーションターゲティングに関する検証を行った。その結果によれば、戦後日本の金融政策は、インフレーションターゲティングで記述できる可能性が示唆され、この結果、金融政策反応関数を用いることで引き締め期の貸出チャンネル・預金チャンネルへの影響の分析における識別性の問題をより回避できる可能性も示唆された。 1994年12月のBIS(Bank for International Settlements)レポートでは、デリバティブ市場の成長に伴うマクロおよび金融政策上の問題点を報告し、その重要性を強調している。しかしながら、これ以外にも例えば、以下のような影響が考えられる。 (1)リスクヘッジ目的の有価証券保有、(2)バーゼル規制などの自己資本比率規制、(3)銀行を通じたデリバティブ取引、(4)企業のリスクの性質を事後的に変換する手段の提供。 デリバティブの普及は、情報の非対称性を考慮した金融政策の波及経路に何らかの影響を与えることが考えられるが、実証は今後の課題である。
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