本研究の目的は、途上国間の経済協力として30年あまりの歴史を持つASEANが、90年代に入ると「拡大」と「深化」の目覚ましい新展開を見せるようになった背景を探り今後を展望することにあった。ASEANの「拡大」とは、従来のASEAN6(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)にインドシナ4(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)が加入して「ASEAN10」を形成することであり、「深化」とはAFTA(BBCスキーム、AICO、AIA等)により域内経済協力を強化することであった。この「拡大」と「深化」を繋ぐものとして、AFTAとベトナムの関係に焦点を絞り研究する計画を立てた。本研究開始した1997年はASEANへ結成30周年という記念すべき年に当たり、ベトナムと他のASEAN諸国との経済関係は一層緊密化するものと予想されていた。が、同年7月2日のタイ・バーツ切り下げによるアジア通貨危機の発生によりその予想も本研究計画も修正を余儀なくされた。そこで私は、まず第1にASEANを含む東アジアの経済が「奇跡」から通貨危機へと急展開する原因を究明し、次いで第2にそのアジア通貨危機の中でベトナムを加えた拡大ASEANが如何にして危機を克服しようとしているのかを明らかにするように努めた。第1の点に関しては、ASEAN諸国に倣ってベトナムも採用した輸出指向型工業化(EOI)戦略の限界を強調した。また、第2の点については、ベトナムのハノイで開かれた第6回ASEANサミットで提起された「大胆な政策」(ASEAN緊急経済対策)に注目した。このような修正を加えることによって、AFTAとベトナムという本研究のテーマの-アジア通貨危機を経ての-最新の局面に接近し、地域協力機構としてASEANが有する特徴を解明することができたと考えている。
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