研究概要 |
本研究の課題は,大手私鉄による事業展開戦略の実態とその有効性についての解明に焦点を当て,その市場戦略をより深いレベルで考察することであった。それは,民間供給を活用した効率的な公共交通網をいかに整備するかという,交通経済学や交通政策論が今日発している問題提起に対して,わが国の実態に基づいて解答を与えようとしたものと位置づけることができる。民有民営の私鉄が,補助システムが確立されていないにもかかわらず採算性を維持しながら,地域旅客交通サービスの重要な供給者となりえていることは,自然科学的な意味での実験による検証が困難であるだけに,非常に貴重かつ重要な研究題材であることはいうまでもない。そしてその成功因の一つが,本研究でとくに取り上げることにした多角的事業展開であるといえよう。 本研究の実績としては,まず1997年5月連合王国リーズで開催された5th International Conference on Competition and Ownership in Land Passenger Transport,さらに1998年7月,ベノレギーのアントワープで行われた7th World Conference on Transportation Reserch(第7回世界交通学会)においてわが国都市型私鉄の都市交通政策上の意義に関する(後者は震災とも関連づけて)報告・ディスカッションを行い,さらに各専門家と議論を積み重ねることができた点が挙げられよう。具体的な成果としては,大手私鉄の,電鉄会社レベルおよびその枠を越えたグループ・レベルの両レベルでの事業展開について,どのような規模での事業展開が行われ,収益性との関係を明らかにすることができたことが挙げられる。なかでも事業展開は電鉄にとってプラスの側面はあるものの過度の展開は逆にマイナスとなりうる可能性が強いこと,電鉄会社内での多角化と社外でグループとして展開することのバランス,事業環境の恵まれていない中小私鉄でも大手の場合の議論がかなりの範囲で成立することなどは,本研究の貴重な発見事実であると考える。
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