研究概要 |
本研究においては,財務会計における「計算」と「情報」をめぐる問題を多角的に検討してきた。その検討の起点として,まず複式簿記システムにみる計算の構造を明らかにすることから着手した。アメリカにおけるAccountingのテキストをもとに,複式簿記がどのように説明され,今日に至っているか,その計算システムとそれからアウトプットされる情報という側面に焦点を合わせて研究を進めた。そのことは,わが国の簿記テキストの過去と現在という問いかけをもたらし,そのための資料として近畿大学,京都大学,香川大学,岡山大学,西南学院大学,同志社大学の図書館,研究施設に所蔵する簿記テキストの昭和25年頃から45年頃までの文献リストを作成した。本研究は言うに及ばず今後の研究に資するところ大である。 また,本研究では,会計情報のコアとなる財務諸表の理論形成の側面についてドイツ,アメリカを中心に研究を進めた。ドイツにおいては,「計算」を中心とする思考としてシュマーレンバッハ,リーガーの学説を取り上げ,現在の「情報」を指向する会計との関わりを貸借対照表能力論の側面から検討した。アメリカにおいては,「計算」の側面として1930年代から60年代における原価主義会計の生成と展開を実現主義との関わりから検討すると共に,1960年前後から台頭する「情報」を指向する会計をFASBの討議資料等を中心に検討した。その結果,計算と情報の乖離にみられる諸側面が浮き彫りにされることになった。このことから,「計算」と「情報」の乖離をどのように補完して展開するかということが会計のこれからの課題となるといえる。そして,この問題をキャッシュ・フロー計算書(資金会計),時価の導入(年金会計)との関わりで検討した。
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