複雑な社会システムの中で、企業倒産が産業社会に与える影響は極めて大きく、このため企業倒産を的確に予知しうる情報が広く求められている。本研究は、これまでにない大量の財務データを用いて、企業倒産の実証分析を行ない、わが国特有の商習慣や制度会計の現状をも十分に考慮しつつ、企業倒産予知情報の形成のための理論と手法の構築を試みたものである。 企業倒産予知のみならず企業の業績評価のために日常的に用いられている財務分析では、ROEや流動比率といった指標が有用であることが常識とされてきた。また、財務指標は、業種や企業規模によって平均値に差があり、したがって業種や企業規模を超えて財務指標を比較することは意味をもたないと言われてきた。しかし、それらについては、大量の財務データによって実際に検証されたことはなく、あくまで実務における経験則に過ぎない。本研究では、これまで有用とされてきた財務指標以上に企業の倒産兆候を明らかにする財務指標が存在するのではないか、また企業が倒産に至る過程でみせる財務指標の悪化傾向には、業種や規模を超えて共通のものがあるのではないかと考え、大量の財務データを用いて実証検証を行ない、それらを科学的に明らかにした。その結果、これまで有用とされてきた財務指標以上に、企業倒産を判別するために有意性を表わす財務指標が存在することが明らかとなり、それらは業種や規模を超えて共通のものであることが検証された。また、それらの財務指標から、企業が倒産に至る際の企業行動パターンが浮き彫りとなった。 さらに本研究では、財務データの企業実態開示能力に着目し、企業実態と財務数値の乖離が財務分析に影響を及ぼし、その結果企業倒産予知を困難ならしめている現状を明らかに、企業実態と財務数値との乖離を克服する手法について考察し、具体的手続の提案を行なった。
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