研究概要 |
本研究は様々な自然現象にあらわれる相変化問題をモデル化して得られる偏微分方程式について,数学的立場から総合的に研究を行った。 主な分野は,(1)障害物問題と相変化の界面との関連,(2)結晶成長モデルの解析,(3)相転移問題のモデル方程式の解析,(4)常微分方程式の定性的理論,である。 (1)については,障害物問題,特に両側障害物問題を粘性解の概念を用いて定式化し,その応用として解の障害物と接触する領域の大きさについての評価について考察した。接触領域の境界は相変化する現象の界面のモデルと考えられる。これまでにも変分不等式の理論を用いて片側障害物問題は考察されていたが,ここでは粘性解の概念を用いて両側障害物問題を考察した。また∞-Laplace作用素の固有値問題と障害物問題の関係についても予備的な考察を行った。(2)については極低温下での結晶成長の1つのモデルとして、多角形のクリスタライン曲率による運動がある。クリスタライン曲率に従って運動する多角形の族の存在とその挙動を調べ、クリスタライン曲率が滑らかな曲線の曲率を近似することに注目して、単純閉曲線の曲率による運動への近似問題に応用できることを示した。(3)については新しい自由エネルギーから得られる偏微分方程式系について,大域解の存在と一意性が得られた。(4)については,非線形常微分方程式の解が振動解である条件や正値解であるための条件について考察した。本研究の目的とするような,現象に密接に関連する偏微分方程式の研究においては,特殊解,近似解が有用である。このような観点から常微分方程式の定性的研究が有用であった。
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