研究概要 |
Siegel-Moserの教科書「天体力学講義」(1971年刊)で扱われている,2次元円環上のツイスト写像の摂動という有名な問題がある.この問題を,円環上ではなく,単位円板DとDに作用する一次分数変換の群Gの積空間G×D上で考察したのが,今回の研究である.円環を極座標(r,S)を用いて表すとき,円環の各点(r,S)に点(r,r+S)を対応させる写像をツイスト写像というのであった.さて,2次元円環を積空間G×Dにおきかえ,その上でのツイスト写像TをT(z,a)=(a,a(z))によって導入する.Gのすべての元aに対して,Tは集合{a}×Dを不変に保ち,しかもこれらの{a}×Dの合併は全空間G×Dに一致するので,Tによって定まる力学系はG×D上の可積分系である.この研究で得られた結果は次のようなものである:aが楕円的な一次分数変換で,aの回転角がディオファントス的であれば,ツイスト写像の不変集合{a}×Dは小さな摂動に対する耐性をもつ,ただし,Gの任意の楕円的な元aは回転z→exp(ik)zと相似になるが,この実数kをaの回転角と呼んでいる.また,実数kがディオファントス的であるとは,比k/(2π)が有理数によって良い近似をもたないこと,つまり,ある正数Cとpがあって,すべての有理数x=m/nに対し,|k/(2π)-m/n|がCと1/nのp乗の積以上の大きさをもつときをいう.なお,この研究には,上に掲げた課題名のうち「ハミルトン系」も「1階偏微分方程式の分岐解」も登場しない.関係するのは「可積分系の摂動」のみであって,登場していないものは,将来の課題としてそのまま残っている.
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