研究概要 |
平成9年度は,論文[2]で超対称性に関して見出した新しいタイプの対称性自滅spontaneous symmetry collapseの物理的・数学的本性を解明するため,熱力学的相とそれを特徴づける秩序変数,表現代数のcenterと系の対称性との間の整合的理解を目指す基礎作業を行なった。それにより,centerのspectrum,central ergodictiyやcenterに収束する物理量の近似列等を扱う手法に関する重要な知見を得,大偏差原理の視点から量子確率・確率過程論の諸概念がGoldstone定理や低エネルギー定理の応用に際して有効に働くことがわかった。論文[3]でその一部を報告したが,量子論的大偏差原理に関する幾つかの問題点を現在検討中である。 平成10年度は,前半Gottingen科学アカデミーの招待でGottingen大学に.Gauss Professorとして滞在し, Profs.D.Buchholz,H.Roosと標記課題に関する研究討論を行う一方,対称性自滅のパターン分類に取り組み,幾つかの重要な成果を得た[5]。後者は冒頭の課題への一つの答で,対称性自滅の可能な全てのパターンを枚挙し分類することで[2]の結果を広い視野から捉え直したものである。前者は,その基本的枠組の概要を数理研研究集会「量子情報と量子力オスの数理」で報告し,現在共著論文を準備中である。要点は,任意の状態を,時空各点の微小近傍内の局所的物理量の適当な族を通じてKMS状態の集合上に写像し,当該状態を種々のKMS状態の統計的混合として表すことによって温度平衡概念を拡張するもので,局所平衡概念の新しい定式化である。これには,massless free scalar field を用いた局所温度状態の非自明な例がある。ここから熱力学・量子統計力学の一般相対論的拡張も可能となる。平成10年秋にはLausanne大学数学研究所Prof.S.Maumaryの招待を受けて,BRSコホモロジーを代数的・ホモロジー代数的観点から捉え直す研究討論を行い,論文作成作業を現在継続中である。
|