研究概要 |
本年度の研究の特色は,量子色力学(QCD)の「有効理論を用いた解析的なアプローチ」と,スーパー・コンピュータを駆使してQCDの分配関数を直接計算する「格子ゲージ理論に基づく超大規模計算によるアプローチ」とを2つの主柱として,両者をバランス良く取り込み,「クォークの閉じ込め」という研究テーマの下に相互に連携させてオリジナルな研究成果を出している.主要な研究実績は以下の通りである.1.格子QCDを用いて,最大可換(MA)ゲージでのグルーオンの対角成分及び非対角的成分のプロパゲーターを調べ,MAゲージでの非対角グルーオンが1GeV程度の有効質量を有する場として振舞うことを定量的に示した.このMAゲージ固定条件による「非対角グルーオンの有効質量の生成」は,世界で初めての指摘であり,これがMAゲージでのQCDの非摂動論的諸量に対するアーベリアン・ドミナンスの物理的起源と考えられる.2.MAゲージでは,非対角グルーオンの振幅が強く抑えられる為,非対角グルーオンの位相が近似的に「ランダム変数」の様に振舞うことを世界で初めて指摘した.そして,非対角グルーオン位相をランダム変数とみなす近似の下で,閉じ込め力がグルーオンの対角成分のみで再現されること(閉じ込め力に対するアーベリアン・ドミナンス)を解析的に証明した.3.MAゲージ固定の商空間の非線型表現としての数学的特性の分析とMAゲージで定義された物理量のSU(N_c)-ゲージ不変性に関する判定条件の導出を行なった.4.QCDモノポールの近傍には,グルーオンの非対角成分が多く残留し,'t Hooft-Polyakovモノポールと類似の構造を有することを示した.5.カラー・フラックス・リングとしてグルーボールの研究及び0^<++>のグルーボールとして現れるQCDモノポール(双対ヒッグス粒子)の崩壊率の計算を行なった.6.インスタントンの多体系としてのQCD真空の構造が,QCDモノポールの凝縮体と見なせることを,モノポール世界線のクラスター構造を調べることにより示した.また,インスタントン多体系においては,1fm程度の中間距離領域に閉じ込め力が誘起されることを示した.7.非対角グルーオンの残留という観点から,インスタントンとモノポールとの相関の理由を説明し、両者の局所的な相関を予測した.
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