研究概要 |
本研究では、多層膜を用いて軟X線ファラデー回転測定をまず放射光光源で手軽に行なえるようにし、かつこの測定が放射光を用いた磁気円二色性(MCD)測定よりもより磁性体のバルクの性質を与えることを示すことと、ファラデー回転測定を実験室でも可能にすることを目的とした。 初年度はファラデー回転測定装置を製作し、組立・調整を行なった。直線偏光の生成および偏光回転の測定には、開発した透過型および反射型のAl/YB_6系多層膜偏光子と検光子(50〜70eV)を用いた。磁場発生装置にはSm-Co系永久磁石を用いた。装置全体を真空容器の中に収め、ターボ分子ポンプで排気した。次年度は、まず最初に分子科学研究所の放射光施設(UVSOR)において、ファラデー回転測定を行なった。偏光子として透過型多層膜を用い、分光器の後の直線偏光度を向上させ、NiのM_<2,3>、CoのM_<2,3>およびCo/PtのCoのM_<2,3>とPtのN_<6,7>吸収端付近で測定を行なった。Niで得られたファラデー回転角(室温)は、これまで全光電子収量法により測定されたMCD(140K)を解析して得られた値に比べて大きかった。したがって本研究で得られた磁気光学効果の値の方が従来の結果よりも酸化などの表面状態の影響を受け難く、よりバルクの性質を反映していると考えられ、この方法の有用性が実証された。さらにレーザー誘起プラズマ光源を用いた分光系において偏光子として反射型多層膜を用い、ファラデー回転測定を実現した。これは実験室で磁気分光実験を可能とした世界で最初のものである。 放射光を用いたNiの結果については、第12回真空紫外線物理学国際会議で報告した。実験室光源を用いたファラデー回転の実験については、目下投稿準備中である。今後、この2年間で測定できなかった試料を順次調べていく予定である。
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