研究概要 |
本研究では,半導体の破壊に伴う発光,電子・原子放出のメカニズムを解明するための基礎研究として,固体の変形と破壊による電子系と原子系の励起について理論的に研究した. 研究内容は,(1)破壊による電子放出のメカニズムを,破壊面の温度上昇による熱電子放出の立場から検討したこと,(2)モデル系を用いて,亀裂進展による原子系の励起運動の計算機シミュレーションを実行したこと,(3)結晶格子のへき開とすべり変形による電子構造変化の計算を行ったこと,である. 研究成果は以下のようにまとめられる. (1) 金属の破壊による電子放出量と放出電子のエネルギー分布,半導体の破壊による電気伝導度の増加量を,電子の熱励起の観点から計算した.その結果,破壊面近傍の電子系は1000K程度の温度に相当する励起状態になることが推定される. (2) 弾性ばねにより結合した2次元モデル粒子系に対して,引張破断による原子系の励起運動の計算機シミュレーションを実行した.その結果,亀裂進展前の引張ひずみがあるしきい値を超えると,亀裂進展により放出される粒子数が急激に増加することが示された.これは,半導体や絶縁体などで観測されている破壊による原子放出現象の特性を再現している.今後,粒子放出のメカニズムを詳細に検討する予定である. (3) 格子変形による電子系の応答を調べるため,金属のパラジウムと銀に対するへき開とすべり変形による電子構造変化の計算を行った.その結果,格子変形に対するsバンドとdバンドの電子系の応答の違いを明らかにし,パラジウムの水素脆化の電子論的起因を考察した.
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