研究概要 |
スピン基底1重項を持つ1次元ハイゼンベルグ反強磁性体の新しい不純物効果を主題にして,スピン基底1重項を持つ物質の特異な磁気的性質の解明を目指した核磁気共鳴法(NMR)による研究を行い,以下の成果を得た。 1. スピン基底1重項を持つ1次元ハイゼンベルグ反強磁性体に非磁性不純物をドープした時に現れる新しいタイプの磁性を調べる為にCu_<1-x>Zn_xGeO_3の単結晶試料のNMRによる研究を行った。Cu核の核スピン・格子緩和率とNMRスペクトルの線幅を,最近この系に対して理論的に計算されている結果と総合的に比較し,反強磁性相関がスピンダイナミクスにどのような効果を与えるかを明らかにした。 2. スピン基底1重項を持つLaCoO_3とRCoO_3(R=Pr,Nd,Sm,Eu)の磁気的性質をCo核のNMR測定から調べた。LaCoO_3では,約100Kでスピン1重項状態の低スピン状態から中間スピン状態と考えられる磁気状態に転移するが,RCoO_3では,LaCoO_3,と異なり,金属絶縁体転移を起こす約500K付近まで低スピン状態をとることを明らかにし,金属絶縁体転移の原因がスピン状態とは無関係であることを明らかにした。また,これと関連して,La_<2-x>Sr_xCoO_4はSr組成を増すとスピン転移をを起こすことを明らかにした。 3. 酸化バナジウムV_<2-y>O_3,および,(V_<1-x>Ti_x)_2O_3を取り上げ,V核のNMRから,この系の金属常磁性相でも,基底状態が非磁性になることに対応したスピンギャップの存在を初めて見いだした。 4. ジグザグ鎖と梯子鎖を持つ1次元物質として,バナジウム・ブロンズ(A_xV_2O_5,A=Na,Ca,Ag)を取り上げた。特に,AV_6O_<15>(A_<0.33>V_2O_5)は,V^<4+>サイトとV^<5+>サイトの電荷の分離が低温で生じる電荷秩序を一般に起こすことを初めて見出した。絶縁体であるにもかかわらず高温での混合原子価的な振る舞いの原因,さらに,電荷秩序を起こした後の電荷秩序の形成が連続的に起きている可能性などの観点から1次元量子スピン系としての新しい物理を含んでいることを明らかにした。
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