研究概要 |
本研究で我々は,一貫して,2個のS=1/2スピンと2個のS=1スピンが交互に並んでいる1次元量子混合スピン鎖を取り扱い,数値的及び解析的方法を用いて,系の基底状態および有限温度の性質を理論的に研究した.この系において,S=1/2スピン間,S=1/2スピンとS=1スピン間,S=1スピン間の等方的最近接交換相互作用定数を,それぞれ,J_1,J_2,J_3(正の場合反強磁性的,負の場合強磁性的)とする。 1.基底状態 先ず,Lieb-Mattisの定理を応用することにより,基底状態における全スピンの大きさが,J_1,J_2,J_3の符号によって,どのように変化するかを調べた.次に,Wigner-Eckartの定理の適用や摂動計算により,J_2>J_1,J_3などの極限を調べ,考えている系を既知のボンド交代スピン鎖にマップすることにより,各極限での,エネルギーギャップの消失を伴う2次相転移線の振舞い,および,各基底状態相がValence-Bond-Solid(VBS)描像によってどのように表されるかを明かにした.更に,密度行列繰り込み群法を用いて,J_3の値をJ_3=1に固定したときのエネルギーギャップのJ_1,J_2依存性を計算し,J_1対J_2全平面上の基底状態相図を決定した.この結果,J_1対J_2平面に5本の相転移線が存在し,これらがこの平面を6個の相領域に分割することが明らかになった.また,最近接スピン対相関関数やストリングオーダーパラメタのJ_1,J_2依存性の計算を行い,それらの結果より,各基底状態相が11種類のVBS描像によって表されることを明かにした.以上に述べた基底状態相図に関する研究の他,得られた基底状態相図に対する,S=1スピンがもつ1イオン型異方性エネルギーの影響や基底状態磁化曲線などの研究を行った。 2.有限温度 量子モンテカルロ計算を行うことにより,いくつかのJ_1,J_2の値(J_3はJ_3=1.0に固定)に対して,比熱や帯磁率の温度依存性を計算した.その結果,例えば,J_1=1.0,J_2=5.0のとき,比熱が温度の関数として2つのピークをもつことなど,混合スピン系に特有ないくつかの現象を見いだした.
|