研究概要 |
本研究で、以下の新たな知見を得ることが出来た。 1. 高圧メルティング条件を経て出現する多層ラメラ形態リン脂質のsub転移は、2つに分離して出現する可逆現象である。Raman散乱実験を用いて、リン脂質“極性頭部の動き"がこの転移に関与することを(a)コリン、(b)リン酸基、(c)グリセロール、(d)アシル基(極性頭部と炭化水素鎖間のインターフェース)各部位で定性的に検証出来た。 2. 極性頭部と接するH_2O分子(水和層)を「水」【double arrow】「過冷却状態」【double arrow】「氷」と低温領域で変化させて脱水による極性頭部の強制的な動きを誘導させた結果、「過冷却水」【double arrow】「氷」の発生に伴う極性頭部の動きをRaman散乱実験で、また、炭化水素鎖充填形態変化をx-ray回折とRaman散乱で検証出来た。また、極性頭部が平面を形成し、約20Å〜30Å程度の間隔をもって互いに平行に向かい合う隙間の環境に水を取り込む場合、氷の発生を可成り阻害することを確認出来た(約-45℃:DSPC15wt%含水の場合)。 3. 多層ラメラリン脂質に含ませた水分が、多層ラメラ水和層以外にも存在(剰余水)する場合とこの剰余水が存在しない(水和層のみ)何れの場合にも、六方晶系状の氷の発生をx-ray回折で検証出来た。前者はhomogeneous(約-20℃で氷発生)であり(純水とほぼ同じ氷発生温度)、後者はheterogeneous(約-45℃で氷発生)であった。 4. リン脂質の種類(Cn=20,22,24/chain)を変えることでsub転移に対応する転移を常圧下で、条件無しに検出することが出来た。このsub転移は2つに分離して出現する可逆現象である。その特性は、加圧下での実験事実と対応する。 本研究で、高圧・常圧下でsub転移に伴う極性頭部の定性的評価は概ね出来たと考える。また、常圧下で条件無しで出現するsub転移をも初めて見い出すことが出来た。今後、更に継続発展させる必要を痛感する。定量的な解析を実行し、この転移に関する理論的解析を試みる予定でもある。また、現在、低温領域(≦0℃)でのリン脂質の更なる実験的検証を継続中である。
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