研究概要 |
岩手山では1995年9月以降,火山性微動・火山性地震の活動が活発になった.特に,1998年4月〜8月には有感地震を含む活発な地震・微動活動が発生し,社会的にも注目された.われわれは,臨時地震観測点,地殻変動観測点の増設などを行い,活動機構の解明に努めた.これまでに得られた主な結果は以下の通りである. 1. 岩手山を取り囲む6点の定常観測点と15点の臨時観測点で地震観測を実施した結果,以下の事実が明らかになった.1)1998年3月〜8月,西岩手火山浅部において最大M3.4を含む7000個余りの地震が群発した.2)地震活動は西岩手火山東端の鬼ケ城付近に始まり,時間とともに西岩手火山西端の三ツ石火山西方まで拡大した.3)8月半ば以降地震活動はやや衰退する.特に震源域西部での活動の衰退が顕著である. 2. 1998年9月3日,火山性地震活動域の南西端に隣接して,M6.1の地震が発生した.余震域は火山性地震活動域とほとんど重複しない.この地震直後の約1週間,岩手山山頂近傍の地震活動が一時活発になった. 3. 火山性地殻変動を捉えるために,連続観測点12点,繰り返し観測点8点の高密度GPS観測網を展開した,商用電源や電話回線のない山頂部での観測のために新たな観測システムを構築した.この観測網により,1998年2月〜8月に最大4cmに達する顕著な火山性地殻変動が観測された.水平変位分布から,これらの地殻変動は,はじめ西岩手火山東部深さ約10kmにあり,後に同火山西部深さ約2kmの浅部へ移動した圧力源(増圧)によって生じたことが解明された.9月3日の地震に伴う変動は,上記の変動と異なり,逆断層運動による変動である. 以上の観測結果から,岩手山では1998年2月〜8月に山頂近傍のやや深部から西岩手火山浅部へのマグマ性流体の貫入・移動があり,これにともなって活発な地震活動と顕著な地殻変動が引き起こされたと推定される.
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