研究概要 |
地殼から上部マントルにかけての領域はかなりランダムに不均質であり,その中での波動伝播はかなり複雑である.ランダムな不均質構造の現れとして最も顕著なのが,近地地震の記録に見られるコーダ波の存在である.小さな地震はとても短い震源継続時間しか持たないにもかかわらず,かなり大きな振幅のSコーダ波がかなり長い時間継続して現れる.特に高周波数の地震波形の主要部分は非干渉性の波の重ね合わせから成るとの考えから,2乗振幅の重ね合わせに基づくエネルギー輸送理論的なアプローチが有効である.それ故,地震波形のエンベロープの性質を調べることによって,リソスフェアの不均質構造に関する知見を得ることができるものと考えられる.しかし,これまでのエネルギー輸送理論は数学的に簡単な球対称輻射・等方散乱の場合のみに限られており,実際の波形エンベロープ解析に用いるには,さらに現実的な物理過程や構造を取り込んだ定式化が必要とされている. 平成10年度は,このような現実的な速度構造を取り入れたエネルギー輸送理論の定式化に取り組んだ.この理論に基づき,兵庫県南部地震(1995)について,長周期成分の解析による断層モデルを取り入れながら,特に高周波成分のエネルギー輻射量を未知としたインバージョン解析をおこなった.長波長成分の解折から推定される断層運動と短波長成分から推定される高周波エネルギー輻射とを統合し,この地震の震源破壊過程を詳細に記述することを可能にした. 岩手県三陸町および遠野市において,小スパンのアレイ観測を開始した.この地域周辺での小地震の高周波数地震波形記録の収集につとめると共に,そのデータの相関解析から地下の不均質構造のスペクトル構造の推定を行う.
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