研究概要 |
海洋プレートのサブダクションは,地球表層の水圏の流体が深海から地殻およびマントルへ循環するための主要なプロセスである.海洋地殻もしくはその上位の堆積物中の間隙水および含水鉱物としてトラップされた流体は,そのほとんどが沈み込みプロセスの初期に放出される.放出された流体の多くは付加プリズムを通り抜け,付加体に対して物理的および化学的影響を与えている. 本研究プロジェクトは,付加体を通過する流体よる物質の移動の実態をリアルに捉えることに成功した.その要点は,付加体地質学の観点から以下のようにまとめられる; (1)10km以浅(ブドウ石-パンペリ-石相より低圧側)のオフスクレーピングによって形成された付加体では,流体による酸素同位体変質はほとんど受けていない. (2)約10-15kmでアンダープレートした付加体では,深部から上昇してきた流体が,順序外スラストに沿った多数の剪断帯を通路として,その周辺の岩石に物質移動(主要元素,微量元素および酸素同位体比の変質)を引き起こしている.その際の露頭規模での流体の通路は,著しく剪断された塩基性岩や断層破砕帯である. (3)深部付加体では,脱水作用によって放出された流体は,各岩相境界を通路として付加体内部を通過し,酸素同位体変質を広域的に引き起こしている. (4)付加体をその深度に応じて,便宜的に,浅部(<10km),中部(10-15km)および深部(>15km)に区分する.それぞれの構成岩石の酸素同位体比は,泥質岩および塩基性岩では中部において最も高くなるのに対し,石灰質岩では浅部から深部へと次第に低くなる. (5)付加体内部を通過した流体は,周辺の岩石に酸素同位体変質を引き起こしているが,同位体的には非平衡である.ただし,同位体変質の領域は,浅部付加体では極めて狭く,深部では地質図オーダーに及ぶ場合もある.
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