研究概要 |
物質の融解は化学者にとって極めてなじみ深い現象であるにもかかわらず,融解のミクロスコピックな起源は,振動の非調和性が本質的に重要であるということ以上には理解されていない。本研究のテーマは,XAFS(x-ray-absorption fine structure)分光法を融解という現象を.ミクロスコピックに局所構造と非調和熱振動の観点から検討することであり,これは申請者らのこれまでの非調和性に注目した研究と直接的に関連するものである。まず準備段階として,融解より十分低温でのバルク固体のEXAFSのデータから量子統計力学的に原子間ポテンシャルを見積もり,従来提唱されているポテンシャルの妥当性を検討した。EXAFSで観測される原子間相対変位の熱平均を理論的に計算するため,ここでは,経路積分法を採用した。経路積分法を実際の系に適用するにあたって,有効半古典的ポテンシャル法を利用した。この手法を金属にも適用できるようにするため,経験的ポテンシャル関数として通常は古典論的に用いられているEmbedded Atom Method(EAM)を今回の経路積分有効ポテンシャル法に応用するための立式を行った。次に,固体表面および表面融解状態での原子の振動異方性・非調和性を表面EXAFSにより実験的に検討した。系としてはまずKBr基板上のKCl超薄膜を扱った。融解の実験までを検討するには至らなかったが,融解の前兆である表面原子の揺らぎの異方性に関して定量的な見積もりを行った。さらに,もともとの中心課題と考えていた金属薄膜(グラファイト上のNi,Cu)における表面原子の振動異方性・非調和性を表面EXAFSにより実験的に検討した。
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