研究概要 |
本研究は,水素結合性の官能基及び強い双極子であるカルボニル基をもつ有機結晶の構造を単結晶X線回折法により常温及び低温で決定し,常温での測定だけでは得られない構造情報を得,あわせて結晶設計に関する指針を得ることを目的として行った。1 こはく酸水素アンモニウム及びグルタコン酸水素カリウム一水和物の結晶構造を低温での相転移の前後で調べた。両結晶とも二次の相転移に伴う結晶構造の対称性の変化は観測されなかった。前者では相転移の前後で水素結合距離の温度依存性に変化が見られたが,後者の非常に短い水素結合のO...O距離には変化が見られず,その水素結合は対称中心の位置に極小をもつ単一極小ポテンシャルをとることが明らかになった。2 タルトロン酸水素アンモニウムの結晶で非対称な非常に短いO-H...O水素結合を見出した。この水素結合のO...O距離は常温から20Kまで実質的に変化せず,水素原子は特定の酸素原子と結合していることが明らかになった。3 可逆的なサーモクロミズムを示すN-サリチリデン-2-アミノピリジン錯体の結晶構造を常温及び80Kで決定した。この構造には80Kでもケト型の寄与があり,分子間の弱い電荷移動相互作用が水素結合系のポテンシャルエネルギー曲線を変化させることが明らかになった。4 ゲンノショウコの主成分ケラニイン7水和物の結晶構造を常温および低温でのX線回折データから決定した。分子配座と30種の水素結合の様式が明らかになった。5 常温での構造研究:N-(1-アダマンチル)アセトアミドがアミド類に通常見られる水素結合を形成して結晶化するほかに,メタノール・水溶媒和物として結晶化することを見出した。また,2-ピリドンがジカルボン酸と水素結合性の分子間化合物を作り,その組成及び水素結合様式はジカルボン酸が対称中心をもつか否かに支配されることを見出した。
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