研究概要 |
食中毒は,古くから現在に至るまで人類の食生活を脅かしてきた。日本を含め周りを海に囲まれている島国では,魚介類が主なたんぱく源であるが,その中には猛毒を有する種も少なくない。フグ毒や下痢性貝毒などが有名な例である。シガトキシン(CTX)は,魚介類による世界最大規模の食中毒シガテラの原因毒であり,フグ毒テトロドトキシンの100倍も強力な毒性を持つ。年間2万人以上もの中毒患者が発生するので社会的大問題となっており,中毒の予防のための抗CTX抗体の調製が急務である。しかし,CTXは天然から超微量しか得ることができないので,抗体調製が滞っている現状にある。そこで化学合成によるCTXの供給を目的として本研究を行った。まず不明であったCTXの絶対配置は,AB環部分を化学合成して天然物のCDスペクトルを比較して決定した。さらに,この部分構造を抗原として用い,抗CTX抗体の調製を行った。CTXの様な巨大分子の全合成は非常に困難であり,新規な化学合成の方法論の開発は必要不可欠である。特に効率的な各フラグメントの連結法の開発は重要な課題である。私は,アルキル化反応とオフィンメタセシス反応を利用した連結法を確立した。この方法を利用してCTXのABCDE環部の立体選択的合成を完了した。またTebbe試薬を用いた閉環メタセシス反応と立体選択的なアセタールの還元を利用し,CTXのIJKLM環部の立体選択的合成を完了した。現在,これらのフラグメントを用いて全合成の最終段階を検討中である。
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