研究概要 |
シリルラジカルは有機ケイ素化学における重要な反応中間体であるが、極めて不安定であるため、通常は低温でのみ観測される。本研究ではかさ高いシリル基を用いることによって室温で安定なシリルラジカルを発生させ、その構造と性質を検討した。 シリルラジカル(Et_nMe_<3-n>Si)_3Si・(1:n=1,2:n=2,3:n=3)は過酸化ジ-tert-ブチル(DTBP)を用いた(Et_nMe_<3-n>Si)_3SiHからの水素引き抜き反応および(Et_nMe_<3-n>Si)_4Siと(Et_nMe_<3-n>Si)_3SiSi(SiMe_<3-n>Et_n)_3の光反応によって発生させた。これらのシリルラジカルはESRにより室温で安定に観測される。ESRパラメータから、ケイ素上のメチル基をエチル基で置換するにつれて、ラジカル中心のまわりの立体構造はより平面性を増すことがわかった。また、室温における1、2、3の半減期は発生法によって大きく異なり、例えば(Et_nMe_<3-n>Si)_3SiSi(SiMe_<3-n>Et_n)_3の光反応で発生させた場合、それぞれ3日間、1日、1.5か月であった。 次に、さらにかさ高いシリル基をもつシリルラジカルを発生させるために[(i-Pr)_3Si]_3SiHを合成した。X線結晶構造解析の結果、ポリシラン骨格は平面に近い構造をとっていることがわかった。中心のケイ素原子のまわりの3つのSi-Si-Si結合角の和は354.30°であり、この値は理想的なsp^2原子の値(360°)に近く、sp^3原子の値(328.5°)から著しくずれている。また、このものをDTBPと光照射すると、シリルラジカル[(i-Pr)_3Si]_3Siが生成し、ESRパラメータからラジカル中心のまわりの平面性は1〜3の場合よりもさらに増大していることがわかった。また、室温における安定性はDTBPによる水素引き抜き反応で発生させた1〜3の場合より増加し、室温における半減期は5日であった。
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