研究概要 |
トリス(N,N-ジメチルジチオカルバマト)コバルト(III)錯体とトリス{N-(S-プロリン)ジチオカルバマト}コバルト(III)錯体は、吸収スペクトルは全く同じで、CoS_6構造を示唆し、プロリンのカルボキシル基は配位結合に関与していない。トリス{N-(S-プロリン)ジチオカルバマト}コバルト(III)錯体は、水溶液で速やかなコバルト周りの反転を示すとともに、溶媒により平衡位置も大きく制御できることがわかった。純粋なΔ体,Λ体をそれぞれ単離する方法が完全には確立できていないが、陰イオン交換樹脂に吸着させることにより、異性対比を凍結することができ、食塩水で溶離するとき、樹脂中を展開している間は、不斉の反転が起こらないことから光学純度を決定することが可能となった。また、高温で二次不斉転換により、バリウム塩で、Λ体ができ、その他の塩でΔ体ができることは判明している。平衡状態において、わずかにΛが優性と思われる。一方、Δのカリウム塩のメタノール溶液では、変化が非常に遅く、^1HNMRの温度変化からは、193Kにおいてほぼ純粋なΔ体になっていると推定できる。 トリス(R-システイナ卜N,S)コバルト(III)酸イオンについての平成9年度の研究成果を発表した論文に関しても今年度の研究から陰イオン交換樹脂に吸着させ、異性対比を凍結することができることもわかった。またこの系では、コバルト周りの不斉のΔ【double arrow】Λ反転は,1.0MLi_2(R-cys)水溶液中では,反転速度が大幅に鈍る。一方,0.1MLi_2(S-cys)水溶液中では,極めて反転速度が速く,ちょうどfac-[Co(S-cys)_3]^<3->系の平衡状態になる。即ち,Δ【double arrow】Λ反転と共存システイン配位子の置換反応が,競争していることがわかった。 以上のように不斉転換に関して多くの知見とともに今後の発展すべき研究課題をえることができた。
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