研究概要 |
メタラジカルコゲノレン錯体[CpM(E_2C_2X,Y)]中のメタラジカルコゲノレン環は相反する反応特性,すなわち不飽和性と芳香族性が微妙なバランスの上に共存している興味ある環系である。不飽和性に基づく反応例としてはジアゾ化合物やアジド化合物が金属-カルコゲン結合へ付加し、アルキリデン付加体やイミド付加体を生成する。前年度は、アルキリデン付加体のメタラチイラン環やイミド付加体のメタラチアジリジン環のプロトン酸、ルイス塩基およびハロゲンによる結合開裂(金属-硫黄結合か金属-炭素結合)に伴う構造変化(三元付加体の生成)を検討した。本年度は、下記のように三元付加体の性質を特に熱および電気科学的挙動(CV,電解可視吸収スペクトル、電解ESRなどによる)の面から総合的に検討し、メタラジチオレン環がカルベンやナイトレンのような反応性中間体の捕捉と脱離に対し特異なj反応場であることを明らかにした。 1、アルキリデン付加体は電解酸化、還元いずれによってもアルキリデン架橋部位を解離することがわかった。 2、アルキリデン付加体とルイス塩基(PR_3, P(OR)_3)との反応ではアルキリデン部分の置換基の種類によって、結合開裂部位が異なり2種類の生成物(イリド構造及び6員環構造)が得られることを明らかにした。6員環構造を有する錯体は、酸化、還元いずれも不可逆で、原料のアルキリデン付加体を生成した。一方、イリド構造を有する錯体は、CVにおいて可逆な還元波を示した。2個のエステル基を持ったアルキリデン付加体は、溶液中において、イリド構造との平衡関係にあることがわかた。 3、アルキリデン付加体とプロトン酸(HX)およびハロゲン(X_2)との反応で生成した3元付加体(Co-C結合が開裂し、XがCoに配位した錯体)の電気化学挙動を比較検討した結果、1電子還元により、ハロゲン化物イオンを、1電子酸化によりハロゲンラジカルを解離することがわかった。X=1などでは、ハロゲン化物イオンの解離平衡が観測された。 4、イミド付加体(トシルイミド、メシルイミド)とルイス塩基(PPh_3)とを加熱すると、イミド基がシクロペタジニエル環のC-H結合へ挿入されることがわかった。この反応が分子内反応か分子間反応かをcross over実験から検討した結果、イミド付加体からナイトレンが発生して転位する分子間反応の可能性が示唆された。
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