研究概要 |
1. 本研究では構造相転移に対するランダムネスの効果を熱力学的に明らかにするために不純物を混入した試料の高精度熱容量測定を予定した.測定対象として選択したジフルオロターフェニル(DFTP)は市販されておらず,極微量の試料について実験を行う必要があるので,実験方法の検討を行った.断熱法に代わる別の方法としてAC法の適用可能性も検討した.既設のAC法による熱量計を改良し,装置的には最高水準に達することができた. 2. 溶融した溶液を液体窒素を使って急冷固化させて相分離のない試料を作成し,AC法による実験を行った.数パーセント程度の範囲における不純物濃度の増加に伴い,相転移温度の連続的減少と熱異常の抑制が観測された.同様の方法で作成したDFTP試料を基準にすると,相転移温度の濃度依存性は秩序-無秩序型のターフェニルの場合に類似していたが,熱異常の抑制の強さの依存性はむしろ変位型のビフェニルに類似していた.エントロピーを単位としたDFTPにおける熱異常の抑制はビフェニルの数倍に達する.このことは,DFTPの相転移が,当初期待したとおり変位型と秩序-無秩序型の中間的性質を持つことを裏付けている.構造相転移に対する不純物効果の統一的理解に向けて,構造相転移の統一模型に立脚した理論的検討の展開が望まれる. 3. 変位型構造相転移で見いだした特異な不純物効果の微視的起源を明らかにするために,分子動力学シミュレーションを行った.局所的な秩序変数(平衡位置からの変位)の空間分布をシミュレートし,実験で見いだされたとおりに不純物の種類によって影響が異なる可能性を確認した.
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