研究概要 |
基準分析法である同位体希釈質量分析法に不足当量の原理を導入した新しい分析法,不足当量同位体希釈質量分析法(SIDMS)を提案した。溶媒抽出並びにイオン交換を用いた微量の鉄と銅の新しい不足当量分離法を検討し,マイクロ波誘導プラズマ質量分析計(MIP-MS)あるいはICP-MSを用いたそれぞれのSIDMSを開発した。本法を二三の環境標準試料に適用することによって,精度,正確さ,そして実用性を評価した。 1) 水素結合協同効果を利用する鉄(III)の不足当量抽出の検討 鉄(III)に対して不足当量の4-イソプロピルトロポロンと過剰量の3,5-ジクロロフェノールを用いた抽出を検討し,0.1μgレベルまでの不足当量分離が可能となった。 2) SIDMSによる環境試料中の鉄の定量 MIP-MS測定における最適の有機溶媒,内標準を選択した。上記の不足当量分離法を用いたSIDMSを環境標準試料(NIES No.9)に適用し,定量値が保証値と一致することを確認した。 3) 超微量鉄(III)の不足当量イオン交換分離法の検討 鉄(III)に対して不足当量のシクロヘキサン-1,2-ジアミン四酢酸を反応させて錯陰イオンを形成させ,陽イオン交換により未反応の鉄(III)から分離する方法を確立した。SIDMSによるlOngレベルの鉄の定量が期待できる。 4) 金属交換反応を用いる銅(II)の不足当量抽出の検討 銅(II)を不足当量のジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(II)により四塩化炭素に抽出し,次いで不足当量のパラジウム(II)により水相に逆抽出する2段階の不足当量分離法を確立した。10ngレベルの銅の定量が期待される。 5) SIDMSによる環境試料中の銅の定量 上記の不足当量分離法を用いたSIDMSを海底質標準試料(NIES No.12)に適用し,定量値がNIESの参考値に近いことを確かめた。
|