研究概要 |
本研究では,オサムシ科オサムシ属オオオサムシ亜属を対象に,近緑種間の二次的接触の際の,交雑を介した種間相互作用が,個体群動態と進化に及ぼす影響を,交雑実験,分子系統学的解析,野外個体群の形態分析によって検討した.交雑のモデルケースとして,イワワキオサムシとマヤサンオサムシ,アオオサムシとテンリュウオサムシの2つの場合を解析した.イワワキオサとマヤサンオサでは,交尾器形態の種間差が大きく,種間交尾のコストが大きいために,側所分布が維持され,さらに生殖隔離が促進される方向に選択圧がかかっているものと推定された.アオオサとテンリュウオサの間の交尾器の種間差は小さく,種間交尾のコストは小さかった.このことは,二種の二次的接触地域が河川によって分断され,地域個体群が隔離分布するという環境条件とともに,野外での交雑起源個体群の確立を促進する要因と考えられた. オオオサムシ亜属全体についての分子系統解析の結果,ミトコンドリアの系統樹と,形態種および核遺伝子の系統樹の間に大きな食い違いが見いだされ,その不一致の主要部分は種間交雑のさいのミトコンドリアの異種間浸透によってもたらされていることが示唆された.本州中部〜東部に分布し,交雑帯もしくは接触帯を持つことが知られる四種(アオオサムシ,シズオカオサムシ,ミカワオサムシ,マヤサンオサムシ)のミトコンドリアの種内多型を詳細に分析し,野外での交雑の記録もあわせて検討した結果,一方向のミトコンドリアの異種間浸透が複数検出された.このようなミトコンドリアの浸透は,種間交雑に続く戻し交雑によってもたらされると推定される. 本研究の結果から,近縁種間の交雑を通した相互作用は,オオオサムシ亜属の進化に大きな影響を与えていることが示唆された.
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