多回交尾を行う直翅目昆虫において、いかに配偶者選択が行われているのか、またとりわけ精子置換という現象を背景に雌においては多回交尾からいかなる利益を得ているのか、という点を明らかにする目的で、2種の昆虫に関して検討を行った。 まず、多回交尾を行うオンブバッタに関しては、交尾活動に対する体サイズと日齢の影響を調べた。その結果、体サイズに関しては全体としてみた場合に、雌については中間サイズの個体の交尾頻度が高い傾向が示された。しかし、体サイズは羽化時期が後になるにしたがって小さくなる傾向があったので、結果としては羽化時期後半(9月)に羽化した個体では体サイズに依存した交尾頻度が高まる結果につながった。また日齢に関しては、雌雄ともに日齢の進行にともなって交尾活動が活発になり、観察開始時の雌雄各個体の日齢と交尾またはマウントが観察された頻度の間には有意な正の相関がみられた。 一方、アオマツムシについては、雄が交尾時に雌に提示し、雌が交尾中に摂食するMetanotal Secretion(MS)が、多回交尾システムの中で、雌の卵生産にどのような効果を及ぼすかを調べた。その結果、MSの摂食が雌の卵生産にマイナスの効果があるという興味深い結果が得られた。すなわち、人為的に複数回MSを提示した個体は、40日齢において総卵数が有意に少なく、特に卵巣内に残存する卵数が少なかった。また、MSの摂食量と卵巣内残存卵数の関係を調べると有意な負の相関がみられた。今後、本種の繁殖システムのなかでこの現象がどのような生物学的な意義をもっているのかの検討が必要である。
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