研究概要 |
植物は光を環境情報として利用し、フィトクロムを介して光形態形成反応を示す。シダ配偶体では、フィトクロムに、細胞膜近辺に配向するものとしないものの2種がある。直線偏光下で作用二色性を示すことを特徴とする膜配向型フィトクロム反応は、シダ類から藻類にいたる下等緑色植物には一般的に見られ、下等緑色植物に固有のものである。本研究ではこの膜配向型フィトクロム反応のみを欠失したホウライシダrap,hrap変異体を単離し、膜配向型フィトクロムおよびその光信号伝達過程を生理学的、分子生物学的方法で解析した。 ホウライシダ野生型配偶体では胞子発芽、原糸体の先端成長、細胞分裂、光屈性、葉緑体光定位運動がフィトクロムによって調節されており、後2者が膜配向型フィトクロムに制御されている。胞子のEMS処理により得たrap変異体5株(rap2,7,32,33,39)はいづれもフィトクロム依存光屈性、葉緑体光定位運動を欠失している。これに対し、青色光吸収色素依存の光屈性、葉緑体光定位運動は正常である。この表現型はフィトクロム色素団の前駆体であるビリベルディンを加えても回復せず、また非配向フィトクロムによる光発芽制御は正常であった。また、先端成長、細胞分裂のフィトクロム制御も正常であり、非配向フィトクロムの反応には変化が見られない。したがってrap変異は膜配向フィトクロム自身、あるいはそれに特異的な初期信号伝達過程に異常を来していると考えられる。そこで重イオンビーム処理の胞子から新たにrap変異体2株(hrap11,13)を単離し、ゲノムサザンブロットによりフィトクロム遺伝子に変異があるか否か調べた。その結果、hrap13ではPHY3に変異を来していることがわかった。現在、hrap13変異体にPHY3遺伝子を導入し、変異が回復するかどうか検討している。
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