研究概要 |
ナメクジウオの産卵成功と下垂体様器官の網羅的クローニングが大きな成果である。以下に概要を述べる。 1)生息、地調査:ナメクジウオの生息地調査を終了し,成長,分布,環境要因,底質との関わりを明らかにした。自然状態で初めて産卵行動の一部を録画でき,飼育下でも雌雄間のシグナルの必要性を実験し,放卵,放精前の個体間のシグナルの存在を確信した。 2)生殖と行動と産卵:約半年飼育した雌雄で生殖腺が発達した。2週間飼育ではあるが,2000年7月に日本初の室内産卵がみられた。初めて入手した受精卵は,21日間幼生で飼育したが,変態までの飼育には今後の検討が必要である。産卵誘発への特定の環境因子は無いことがわかった。以上から,生活史完結への足がかりができた。また,行動解析実験から,逃避行動は尾部方向に遊泳行動は頭部方向を主とすることがわかった。 3)Hatschek's pitと筋肉とのサブトラクション法によるライブラリーから得たクローンには,下垂体様ホルモン遺伝子に相同な遺伝子は見つからず,唯一免疫組織化学で陽性であるLH抗体によるイムノスクリーニングの結果でも,陽性反応のクローンは細胞内Gタンパク質伝達系関連の遺伝子であった。既知の機能タンパク質遺伝子と相同な遺伝子を約50個解析した。現在は,未知配列をin situ hybridization法を使った部位特異性によるスクリーニングから,遺伝子の存在を探り,Hatschek's pitの機能解明へと進むところである。一方,神経管のHatschek's pitへの伸長を発見した。両者は10μmまで接近する。この部分の神経管は正中隆起あるいは神経下垂体の可能性がある。今後は,脊椎動物における脳-下垂体-標的器官の系がナメクジウオに存在するかどうか,発生学的実験も含めて総合的に解析していく。
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