ガラニンははじめ脊椎動物の中枢神経系や末梢器官に広く分布することが明らかにされた神経ペプチドである。本研究によって、我々はこの神経ペプチドが広く軟体動物の神経系や末梢器官に分布することを明らかにした。さらに我々は、ガラニンが最も原始的な神経系をもつと考えられている腔腸動物の散在神経系にも分布することを明らかにした。このことは、ガラニンが系統発生学的にふるい神経ペプチドに属することを示唆する。インドヒラマキガイでは、中枢神経系内のガラニン神経系が、唾液腺や、口球に投射していることが明らかになった。本来ガラニンは、脊椎動物の消化管平滑筋細胞を収縮させる作用があるが、軟体動物の筋組織に対する生理的作用が興味深い。ウエスタンブロットによる解析により、インドヒラマキガイ、およびタコのガラニンは、脊椎動物のガラニンよりも大きい分子量を示し、かなり異なることが示唆される。これら軟体動物のガラニンをコードしている遺伝子の解析が興味深い。 1、 ガラニン神経系がインドヒラマキガイのみならず、モノアラガイや陸棲腹足類であるミスジマイマイや海産のサザエ、二枚貝のアサリやシジミの神経系にも分布していた。 2、 マダコの脳、および視葉にもガラニン神経系が広く分布することが明らかになった。特に視葉における分布は視覚中枢との関連性を示唆し、興味深い。 3、 ガラニン免疫陽性構造は、ヒドラでは触角の散在神経系に、マミズクラゲでは下傘面の辺縁部に分布していた。 4、 唾液腺への投射は特に内臓神経節からの投射が重要と考えられ、この一部は、ガラニン免疫陽性であった。 5、 口球への投射は種々の神経節からの投射が観察され、その一部はガラニン免疫陽性であった。 6、 インドヒラマキガイ神経系のウエスタンブロット解析では6.1kDaに、マダコ視葉のウエスタンブロット解析では28.1kDaに、ガラニン免疫陽性バンドが観察された。これらはともに脊椎動物のガラニン(3.1kDa)よりも大きい分子であった。
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