研究概要 |
本研究は,動物の本能行動の切り替えの仕組み解明をめざしており,コオロギの生殖行動をモデル系として実験をおこなっている。雄コオロギは,一度交尾を終了すると,それまでの求愛モードから威嚇モードへと直ちに行動を切り替える。この際の求愛モードの抑制は脳によっておこなわれる(Sakai et al.1995 J Insect Physiol)。一方,求愛期においても,侵害性の刺激などにより,雄は一時的に求愛モードを回避モードに切り替えるが,この際の求愛モードの抑制に脳が関与するかどうかは不明のままであった。今回の研究はこの点を明らかにしたものである。 求愛中の雄コオロギに侵害刺激を与え,一時的に求愛モードを停止させた条件下で,脳の除去または食道下神経節の破壊手術をおこなったところ,前者でのみ求愛モードが回復した。また,同テストの後に再度侵害刺激を与えたところ,後者でのみ求愛モードの抑制が生じた。これらのことから,交尾後と同様,求愛期における求愛モードの一時的抑制にも脳が関わっていることが証明された。ついで,上記行動テストを腹部縦連合の部分的切断および逆行性神経染色法と組み合わせて実験をおこなったところ,求愛モードの抑制に関わる脳のニューロンは,前脳の後方にあって,その軸索を対側の縦連合に出している約40個のニューロンに含まれていることが明らかになった。現在,さらに候補を限定するための作業をすすめ,脳における抑制ニューロンの同定をめざしている。
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