研究概要 |
本研究は,棘皮動物の多孔体で発見された双方向輸送が,繊毛上皮における輸送に一般的に成立つ現象である可能性を検討するとともに,その生物学的意義を,とくに対抗流機構の観点から明らかにするため,いくつかの代表的な繊毛上皮における輸送方向の詳細な検討および対抗流仮説の検証を行うことを目的として行った.まず,ウニの多孔体から,手術とコラゲナーゼ処理を併用して単離した孔管の繊毛上皮における炭素粒子懸濁液の運動を,微分干渉顕微鏡像のビデオ解析により従来より詳細に検討し,孔管内の繊毛周辺のミクロな領域における流速の分布について基礎的なデータを得た.しかし,この方法では多数の繊毛の動く中で粒子を光学的に分離することは困難であった.孔管内部の複雑な光学条件下での水流観測に適した方法として,蛍光色素,蛍光マイクロビーズなどの動きを蛍光顕微鏡で追跡し,ビデオ記録,画像解析を行う方法を開発した.スルフォローダミン101を用いて標識した微量の海水をマイクロマニピュレーションにより,孔管の開口端に注入した結果,口管の「反口側」から「口側」に向かう顕著な水流が観察されたのに対し,「口側」から「反口側」に向かう水流は確認できなかった.この結果と,炭素粒子懸濁液の運動の解析結果とを総合すると,双方向輸送は粒子のサイズに依存した選択的輸送と考えることが妥当なように思われる.また,水流が,従来の概念による繊毛の「有効打」ではなく,「回復打」の方向に輸送されうるという新しい知見が得られた.また,孔管内の繊毛周辺のミクロな領域における流速の分布についても基礎的なデータが得られた.他の繊毛上皮等を用いて同様の解析を行うため,方法の開発と予備実験を行った.
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