研究概要 |
本研究は,コリン作動性ニューロンの概日時計同調系や出力系への関与を調べる目的で,キイロショウジョウバエ野生型と,特定のコリン作動性ニユーロン群でアセチルコリン合成能が低下あるいは消失したコリンアセチル基転移酵素(ChAT)cDNA形質転換体を用いて,免疫組織学的な比較解析と概日活動リズムの比較解析を行い,次の結果を得た。 1.複眼網膜の基底膜下に位置する網膜外光受容器(eyelet)にChAT抗体陽性染色がみられ,これから発する神経繊維は付属視髄に投射していた。eyeletは,少なくとも4個の光受容細胞から構成され,それらのラブドームはRh6オプシン抗体によって特異的に標識された。この観察結果から,eyeletは痕跡的構造ではなく視物質を発現する機能的な光受容器官であると考えられる。 2.付属視髄に位置し概日時計と考えられている側方ニューロン群(LN)に,ニコチン性アセチルコリン受容体抗体による陽性染色がみられた。このことから,eyeletはLNに出力している可能性が考えられ,コリン作動性網膜外光受容器の概日時計同調系への関与が示唆される。 3.高照度の明暗サイクル下では,形質転換体は明瞭な双峰型活動リズムを示したが,照度の低下に伴い活動が双峰型から単峰型へ変化し,さらに光オフ直後の活動が著しく低下した。明暗の位相変位後の再同調に必要な移行期は,形質転換体では対照群(white)に比べ有意に短かった。これらの結果から,形質転換体の光感受性は野生型に比べ有意に高いと考えられる。 4.形質転換体の視葉に分布するLNニューロンの軸索やvaricosityの直径は,野生型に比べ有意に大きい。特定ニューロン群でのChAT発現低下が,2次的にLNニューロンの形態変化を引き起こした可能性も示唆される。形質転換体における概日リズム変異とLNニューロンの形態変異の関係の解析は今後の課題である。
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