研究概要 |
各種熱産業,工場などから排出される大量で低温度レベルのエネルギの利用法の一つとして,形状記憶合金をエネルギ変換素子として利用する動力回収システムの開発のため,形状記憶合金の熱・機械的繰返し変形特性と疲労寿命評価に関して基礎的研究を行った。用いた形状記憶合金は安定性,耐食性,変態温度や疲労特性等の点で優れた性質を持つとされているTiNiCu系合金であり,Cu濃度を0〜13%に変化させたものと,形状記憶熱処理温度348K-363Kと変化させた7種類の合金を用いた。得られた主な結果をまとめると以下のようになった。 1. マルテンサイト変態温度Ms点はCu濃度が増加するにつれて上昇し,逆変態温度As点はCu濃度の増加につれて低下するが,M相の結晶構造が単斜相M相から斜方相M相に変態する状態になると再び上昇した。 2. 繰返しによる有効ひずみエネルギWaは,最大ひずみε_<FTBK>が3%の範囲ではCu濃度の増加とともに増大するが,高ひずみ範囲ではほぼ一定となった。 3. 回復ひずみエネルギの1サイクル当たりの減少量で定義した散逸ひずみエネルギは,Cu濃度の増加とともに低下した。回復ひずみエネルギは高いCu濃度域においては試験サイクルによる差異は認められなかった。 4. 繰返し応力-ひずみ曲線の面積で定義した回復ひずみエネルギと寿命の両対数関係から,最大ひずみが4%以上では熱処理温度が高いほど低寿命となったが,最大ひずみが3%以下では加熱温度の影響はなく両対数ほぼ一本の直線で評価できた。 5. 散逸ひずみエネルギと疲労寿命の両対数関係から,加熱温度,最大ひずみによらず散逸エネルギが減少するほど長寿命となる一本の直線関係で評価できた。 7. 超弾性サイクルにおける疲労寿命は,Cu濃度が5〜10%の領域で低寿命となった。一方,熱・力学的サイクル条件下ではCu濃度の増加にともない低寿命となった。
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